たもたす。

比較文化、哲学あたりの人文系が好きです。社会学や現代思想も少し。読んだ本、観た映画、日々の記録。

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』を読んだ

すべて真夜中の恋人たち

すべて真夜中の恋人たち

 川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』という本を読みました。現代小説を読むのは久しぶりで、とても面白かったです。アマゾンのレビューを見ると、光の描写が美しい、やら前作の『ヘヴン』の方が良かったという感想を見かけますが、私は前作を読んでいないものの、そんなことはないと思います。単なる恋愛小説ではなく、描写が美しいだけでなく、様々な主題が伏流していると思いました。描写を入れる位置・人名など、かなり作り込まれた作品だと思います。以下に読み取った主題を挙げます。

  1. 主体的に選択する「自分で選び取った人生」って何?それって存在するの?

 これは聖と冬子の会話、お酒を飲まないと行動できない冬子、という所から問われています。あとは水野くん。「自分でした選択、引き受けたリスクにこそ価値がある」という価値観を転倒させようとするモーメントを感じました。

  1. 嘘と本物、引用とは何か?

 これは、最後に三束さんが身分を偽っていたこと、そして、それにも関わらず冬子は「本物」の恋をした(かのように)書かれているところから問われていると感じました。人はフェイクの恋だろうと本物と感じれば本物になる、というところでしょうか。感情さえ引用であると感じる聖と、(彼女はそれをフェイクだと受け入れてセフレが何人もいる状態)それに乗っかって服やメイクをして、聖の教えてくれた店に行く冬子(結果、結ばれない)、という設定からも問われる箇所だと思います。

 いずれにせよ、割と時流を捉えた問題提起と、その問いに解を出そうとした作品であると思います。または、校閲者の冬子が、自分の物語を生きるようになる成長譚とも読めます。そして、この作品それ自体が、村上春樹作品の何かのパロディであるような気もします。私はと言うと、バイトを上がって喫茶店で寛いでいるところです。